【前編】若手の意識変化に組織はどう対応する?「ブラック霞が関」からの脱却の鍵 /千正康裕氏 インタビュー
みなさん、こんにちは!今回は特別編として、スペシャルゲストをお招きした特別版を前編・後編に分けてお届け致します!
■「ブラック霞が関」著者:千正康裕氏インタビュー
「ブラック企業」とは、長時間労働や過剰なノルマなどで労働者に過重な負担を強いる企業を指す言葉。元厚生労働省キャリア官僚の千正康裕氏は、著書『ブラック霞が関』で、在職中の経験を振り返り、中央官庁の労働環境について、多角的に問題提起しています。
「良い政策をつくるためには、労働環境を変革することが必要不可欠」
そう語る千正氏に、中央官庁の働き方の課題と、現状を打開する方策について伺いました。
■若手の意識変化に対応することが、最大の生存戦略
――「ブラック霞が関」と呼ばれる過酷な官僚の働き方について、実態を教えてください。
中央官庁で働く官僚たちは、労働の長時間化と、民間企業に比べて旧態依然とした労働環境に圧迫されています。それにより、官僚たちはコア業務に集中できず、専門性の発揮や活躍が難しい状況です。
この問題については、国会対応など霞が関だけで変えられない他律的な業務の要因も大きく、著書『ブラック霞が関』でも詳しく書きましたが、国会議員の中でも課題として認識が広がり、改善傾向にあると聞いています。
今日は、霞が関の中の努力で変えられることにフォーカスしてお話したいと思います。
官僚のコア業務は政策を作ること。官僚が働いているそれぞれの省庁は、法案や政策を検討する場所であり、民間企業でいうところの「商品開発部」のような役割を担っています。
しかし現在は、問い合わせ対応などのコア業務以外のものに追われているのが実情。
先ほどの例で言えば、商品開発部の担当者が、顧客や取引先からの問い合わせ窓口も兼任している状態です。しかも問い合わせ件数はかなりの数に上りますから、それだけでも相当なタスク量だと想像してもらえるのではないでしょうか。
長時間労働が恒常化している原因の一つは、こうしたコア業務以外のものも官僚が引き受けなければならない体制にあります。
――そうした過酷な労働環境が、官僚のモチベーションの低下や離職につながってしまい、悪循環が生まれているのですね。
特に、入省して数年目の若い世代はデジタルネイティブですから、無駄な作業に対する嫌悪感が強い。ネットを使って瞬時に情報や娯楽にアクセスできる環境で育った彼らにとって、非効率とわかっている業務に取り組むこと自体、とても納得しづらいと思います。
その上、雑務や調整業務の多くが若手に回されるため、せっかく入省しても専門性や能力が活かせずに不満が募ります。
今のベテランが若手だった頃の「遠回りでもとりあえずやってみる」という、ある種の根性論的なやり方は、もう通用しません。若手の働き方に対する意識の変化に、組織が対応できていないことが、「ブラック霞が関」の根幹問題だということを、声を大にして言いたいです。
加えて、終身雇用の認識はだいぶ薄れてきていて、一生官僚として働こうと決めて入省する人はあまり多くない。今の若手世代は、民間企業と公務員を比較して就職、転職していきます。民間企業同様に、中央官庁も人材の取り合い合戦に加わっているのが実情です。
だからこそ、今の中央官庁が若手世代にとって魅力的な職場と言えるのか。働きたいと思える労働環境なのか。そういったことを今一度考え直す必要があると思います。
官僚の仕事は政策を作るという、他にはない重要な仕事です。つまり、中央官庁を支える若手の離職が増えれば、国の中枢機能も衰弱しかねない。
この危機を脱却するためには、若い世代と、経営管理層との間にある、労働環境に対する意識のギャップを埋めていくことが、非常に重要だと捉えています。
日々安心して働きながら、個人としての成長を実感したいという若手のニーズに応じて、早急に労働環境を整えなければ、中央官庁の人手不足は加速していくでしょう。
■より良い政策作りのためにDXが必要
――中央官庁ではどのように働き方を変えていく必要があると考えていますか?
具体的には、現在官僚が抱えている膨大な業務を切り分けて、オペレーション業務は外部化したり、省力化したりできるようにすること。
本来であれば、官僚は官庁に閉じこもっているのではなく、直接現地を視察して、実情を把握したり、真に迫る情報を得られるトップランナーたちとのネットワークを構築したりする時間が必要。政策をつくるための情報収集と分析に注力できる環境作りを進めるべきです。
官僚たちが政策の検討により多くの時間を割けるようになれば、国民の実情を反映した政策が作りやすくなります。国民にとってより良い政策をつくるために、中央官庁でのDX推進は非常に重要です。そして中央官庁は、世論の後押しで変革していけます。DXは単なる業務の効率化以上に、社会的な意義があることをぜひ多くの方に理解していただきたいです。
千正氏へのインタビュー前半はここまで。霞が関の働き方の現状を知り、その課題を解決するヒントを考えるきっかけとなるお話でした。
記事の後半では、千正氏が語る、課題解決のための具体的なアプローチのお話をお届けいたします。
―――後編へ